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ニューズレター第4号(April 30, 1996)

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大木コレクション・南葵文庫:現在の状況および中断されている

RISM AIIシリーズへの協力作業について

 正木光江

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This is the first of a series of articles through which the Japanese Branch attempts to report about the present status of musical sources in Japan. This series of bilingual reports is mailed to oversea branches.
ニューズレター第2号の巻頭言「これからの日本支部」で、渡部恵一郎支部長は、「日本の固有の状況を世界に伝える」活動の大切さを強調しています。そうした、海外向け報告活動のひとつとして、今回から連続で、日本における音楽資料の現状レポートを掲載します。第1回目は、正木光江氏(会員)による、南葵音楽文庫の現状レポートです。このレポートは、海外の支部にも発信されます。(編集部)

 大正6(1917)年5月、ロンドンで競売に付され、アメリカ議会図書館とのあいだで折半された、有名なカミングス・コレクションを含む南葵音楽文庫は、第二次世界大戦中に、創立者徳川頼貞氏から大木九兵衛氏の手に移り、疎開、海外搬出、資料一部流出などの非常の時期を経て、終戦後も20年間未公開のままであったが、昭和41(1966)年、ドイツのバッハ研究所からの依頼で、バッハのコラールの自筆譜の所在調査が国内で行われた機会に、この調査に協力した読売新聞社と大木九兵衛氏の間で南葵音楽文庫再興事業提携の話がまとまり、翌昭和42年3月の東京と大阪における『南葵音楽文庫特別公開展』を終えたあと、同年4月に開館したばかりの東京駒場の日本近代文学館に間借りをして、3年がかりで所蔵資料の再調査と整理を不完全ながら一段落させた。日本近代文学館の地下の、檜製の書棚を備えた金庫扉つきの書庫一室と、3階の研究室6室の借用にお口添えくださったのは、当時文学館の理事をしておられた故中島健蔵氏であった。
 昭和45(1970)年10月、財団法人東京音楽文化センターが設立され、新たに資料を拡充し、蔵書目録を刊行して閲覧業務の再開が始まった。文化庁の助成金を得て、貴重資料約800点のマイクロフィルム撮影を完了し、昭和46(1971)年10月、RILM 日本国内委員会事務局を設置、昭和51(1976)年から、住川鞆子氏、小俣純雄氏の助力のもと、RISM A・シリーズへの協力作業も始めた。ようやく業務が軌道に乗り始めた矢先に、まだ独立した建物ももてないまま、事業の母体であった財団法人が、またもや訳あって解散を余儀なくされ、昭和52(1977)年7月、復活からちょうど10年目に、南葵音楽文庫は再び閉鎖された。その後、関連の深い法人組織である読売日本交響楽団に移管されて現在に至っている。この間の再調査の結果、残存する旧南葵音楽文庫の資料の総数は、40年前の総数の 1/3 にあたる約10,000点であり、カミングス・コレクションの紛失資料は筆写楽譜8点、音楽書12点、音楽以外の文献11点で、ヘンデルの《グロリア・パトリ》の筆写楽譜などを除いて、ほぼ完全な状態で保管されていたことが判明した。
 昭和52(1977)年7月の再閉鎖以後、南葵音楽文庫の資料のうち、貴重資料809点のマイクロフィルム(各資料のネガとポジ)および昭和45(1970)年以降に収集した約10,000点の資料は、東京音楽大学付属図書館を経て、平成5(1993)年2月国立音楽大学附属図書館に寄託された。また旧南葵音楽文庫の貴重資料を含む約10,000点は、大木九兵衛氏の邸宅内(神奈川県小田原市入生田367番地)の空調設備をもった書院に、現在保管されている。
 昭和52(1977)年2月、音楽学会内に設けられたRISM日本国内委員会は、カッセル市ベーレンライター社内に置かれているRISMの本部に、RISM A・-A の調査結果を報告した。そのさい対象となった南葵音楽文庫の資料は、RISM A・-A、つまり国際音楽資料総目録の手写資料A項目に相当する資料であり、H. Aldrich、A. Ariosti、G. Alberti など作曲者が判明している資料を含む曲集(しかしたとえば《Collection of English Church Services》[N-7-51] のタイトルをもつ曲集の場合、この曲集に入っている Aldrich の作品のほかに、Tallis、Byrd、W. Child、Blow、Goldwin、Gibbons、Purcell、Green などA項目以外の作曲家の作品も含まれることになる)と、作者不詳(Anonymous)の資料108曲(断片、ス
ケッチを含む)である。調査報告は以下にあげる
(1) Composer's Name, (2) Date of birth, Date of death, (3) Bibliography, (4) Manuscript's Number, (5) Page, (6) Title, (7) Instrumentation, (8) Incipit, (9) Title of Collection, (10) Size, (11) Contents, (12) References, (13) Remarks (14) Water Mark の14項目について行われた。
 このとき、音楽学会からは、当時会長をしておられた服部幸三先生のお名前で、南葵音楽文庫宛に次のような書状を頂戴している。

「この度は RISM A・シリーズのための調査に御協力頂きました事を深く感謝致しております。調査完了分は早速カッセルの RISM 本部に送付のはこびとなりました事を御報告申し上げます。今後共よろしくお願い致します。なお貴館の資料の調査結果のコピーを一部同封いたします。
昭和52年2月17日   音楽学会々長  服 部 幸 三  南葵音楽文庫御中」

 当時の学会秘書青木福枝さんの代筆と思われるこの書状とともに同封された調査結果のコピーは、No.14〜No.39が欠落しているが、委員会でチェックして下さった書き込みがあり、現在も筆写が保管している。この5カ月後に南葵音楽文庫は再閉鎖されたので、RISM のこの作業は結局A項目の段階で中断されてしまっている。

 1967年4月、南葵音楽文庫・調査分類事務局主任を拝命した筆者は、塵にまみれてアトランダムに運び込まれた莫大な資料を目のあたりにしたとき、貴重な資料の数々が眠っていた40年間を、実に長い年月だと思ったものである。南葵音楽文庫の公開が持続されていれば、学生時代に、モンテヴェルディの作品を調べるためにマイクロフィルムを取り寄せる必要もさしあたってはなかったし、留学先から、18世紀の音楽書のマイクロフィルムを大量に持ち帰る必要もなかった。マリピエロ版のモンテヴェルディ全集も、M. フレートリンダー文庫に含まれる18世紀の音楽書の初版本の多くも、40年前から南葵音楽文庫にとっくの昔にしまわれていたことなど知る由もなかったからである。
 そして現在、1977年7月の再閉鎖からはやくも20年近くの年月が過ぎ去ろうとしている。凍結状態の南葵音楽文庫のこの20年間は、筆者にとっては、まさに光陰人を待たず、のあまりにも短い年月であった。現状打開の日が一日も早く訪れることを切に願う次第である。(1996.3.4記)

Ueber die heutige Situation
der Ohki-Sammlung
Nanki Musikbibliothek

Die Nanki Musikbibliothek ist die weltberuemte Musikbibliothek in Japan, weil sie die wichtige Teile der Musikaliensammlung von William Hayman Cummings besitzt. Der Gruender der Nanki Musikbibliothek ist der verstorbene Herr Tokugawa Yorisada. Er war ein ehemaliger Marquis und nach dem Zweiten Weltkrieg ein Abgeordneter.
Nach dem Zweiten Weltkrieg verwalte Herr Ohki Kyube-i statt Herrn Tokugawa die Nanki Musikbibliothek. Im Oktober 1970 wurde die rechtsf撹ige Stiftung Musik-Kultur-Zentrum Tokyo gegruendet und die Nanki Musikbiblio-thek wurde von Herrn Ohki Kyube-i dieser neuen rechtsfaehigen Stiftung gestiftet. Im Oktober 1971 wurde die japanische Filiale von RILM dort eingestellt und 1977 geschlossen. Im September 1976 hat der Praesident von RILM, Prof. Barry S. Brook, dieses Filiale besucht.
Im Maerz 1977 wurde diese rechtsfaehige Stiftung wieder aufgeloest. Jezt wurde die Nanki Musikbibliothek dem Yomiuri Nippon Symphonieorchester uebertragen, da der Yomiuri Zeitungsverlag der Foerderer der Musikbibliothek war. Die mehr als 20,000 Materialien von der Musikbibliothek werden an zwei Plaetzen aufbewart, wie zum Beispiel bei der Familie Ohki in Odawara-shi Kanagawa-ken und die Bibliothek der Kunitachi Musikhochschule in Tachikawa-shi, Tokyo. Die Cummings Sammlungen sind fast ausschliesslich beim Herrn Ohki in Odawara aufbewahrt.
Im Februar 1977, kurz vor dem Schlusse der Nanki Musikbibliothek, hat RISM Komitee Japan beim Hauptbuero in Kassel den Bericht ueber die Untersuchung um RISM AII-A eingereicht. Dabei wurde 108 Stuecke vom folgenden Aspekt her untersucht. (1) Name vom Komponisten, (2) Geburtsjahr, Todesjahr, (3) Bibliographie, (4) Handschtifts Nummer, (5) Seite, (6) Titel, (7) Instrumentation oder Besetzung, (8) Incipit, (9) Titel von der Sammlung, (10) Groesse, (11) Inhalte, (12) Nachschlagen, (13) Bemerkungen, (14) Wasserzeichen.
Obwohl die musikwissenschaftliche Untersuchung der Cummings Sammlung u.a. noch nicht vollkommen fertig ist, wurde diese Bibliothek geschlossen. Seitdem ist ungefaehr 20 Jahren vorbeigegangen. Ich hoffe sehr, dass man sie so schnell wie moeglich wieder an die Oeffentlichkeit bringen kann.
Mitsue MASAKI (Showa Music College)

 

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例会・総会のお知らせ

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■ザノス氏講演会(予定)
以下の要領で、IAML日本支部の例会を企画中です。詳細は、決定し次第、あらためてご案内いたします:
例会講師:Ioannis Zannos 氏 (Staatliches Institut f殲 Musikforschung, Berlin)
講演内容:「ドイツにおける音楽文献カタログの編集状況:音楽文献オンラインプログラム、オンライン化にあたってのメソッド選択について」(仮題)
例会日時:1996年5月25日(土曜日)午後
例会場所:上野学園 日本音楽資料室
共  催:音楽文献目録委員会、上野学園日本音楽資料室
会  費:IAML会員は無料
■本年度の総会は6月15日
本年度の支部総会は、6月15日(土曜)に、日本近代音楽館で行います。万障お繰り合わせのうえご出席ください。詳細は、追って書類にてご案内いたします。

 

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事 務 局 よ り

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■ペルージャ会議:申し込み開始
1996年の、IAML国際会議の要項が発表になりました。今年は、9月1日から6日まで、イタリアのペルージャで開催されます。
日本支部からは、次の2名の会員がペーパーを発表の予定:
(1) 9月2日(11:15〜  )鶴園紫磯子氏(桐朋学園大学)“Music and Paintings”
(2) 9月2日(14:15〜  )竹内道敬氏(国立音楽大学)「18-19世紀日本音楽資料の整理と分類」
今回はじめて会議に参加希望するかたで、どのようにしてよいか不案内なかたがありましたら、日本支部事務局までご連絡・ご相談ください。また、会議の要項がまだお手元に届いていないかたも、至急、日本支部事務局までご連絡ください。事務局より本部あて請求します。
■音楽文献目録委員会に新委員
音楽文献目録委員会の委員が、本年4月から交代しました。IAML選出の新委員は、荒川恒子、寺本まり子、長谷川由美子の3氏(五十音順)。新委員の任期は、1998年3月までの2年間です。また、これまで委員をつとめられた、加藤修子、金澤正剛、東川清一の3氏の献身的な働きに感謝いたします。音楽文献目録委員会は、2年ごとに委員が改選されます。IAML 日本支部では、12月9日の定例役員会で候補者の推薦をおこない、その後、他団体から選出される委員との調整を行った結果、上記の3氏に、委員就任をお願いすることになりました。
■本部名簿改訂にともなうお願い
現在、本部では、世界中の会員の住所・氏名を掲載した名簿を改訂中です。今回の改訂では、新しく、電話番号、ファックス番号、E-mail アドレスが追加掲載されます。上記情報を掲載することに関しては、本部では次のように希望しています:
(1) 団体会員は、できるだけ掲載してほしい。
(2) 個人会員は、プライバシー保護の立場から、希望者のみの掲載とする。
今回ニューズレターと一緒に、問い合わせのはがきをお送りしています。5月15日までに回答いただけますようお願いいたします。
■事務局への連絡は郵便かFAXで
IAMLは、日本近代音楽館のご好意により、同館に事務局の住所をおかせていただいています。しかし、今年度は、日本近代音楽館の職員のなかに、IAMLの事務局スタッフがおりません。館員の方のご好意で、郵便物等を転送していただいているのが現状です。したがって、事務局への連絡は、電話を避け、書面にてお送りいただけますようお願いいたします。なお、緊急の場合に限り、事務局長の自宅でも連絡をお受けいたします。

 

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会 員 異 動

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・新会員
 加納マリ、関根和江、鶴園紫磯子、戸倉信昭、橋田彩子、山口康子、(株)現代ギター社
・ 退 会
 大崎滋生、角倉一朗、尚美学園短期大学資料センター
住所の変更などありましたら、日本支部の事務局まで、ご連絡ください。本部からの郵便物の宛名に誤植がある場合なども、日本支部の事務局あてご一報ください。日本支部事務局が窓口となって、本部へ連絡します。

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PUBLICATIONS RECEIVED

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*音楽文献目録委員会『音楽文献目録(23)』(音楽文献目録委員会より)
*Israel Music Institute News, 1995/3-4.(Israel Music Information Centreより)
*『報告書:The 26th General Assembly and Symposium of the International Music Council』(IMC日本国内委員会より)
* 『国際音楽評議会(IMC)日本国内委員会会員名簿 1995年版』(IMC日本国内委員会より)

(以上)