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ニューズレター第12号(March 20, 2000)
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IAML日本支部3月例会報告
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日時:3月18日(土曜日)
場所:東京芸術劇場小会議室
講演者:レイニアー・ヘスリンク博士
演目:「諏訪祭礼図屏風」の図像学的研究の方法と問題点
レイニアー・ヘスリンク博士(Reinier Hesselink)はノーザン・アイオワ大学歴史学準教授で、東京大学史料編纂所客員研究員。東大史料編纂所では「長崎オランダ商館長日誌」の翻訳・調整にあたる一方、岩手県山田村に着岸したオランダ人の捕縛から帰還までの史実を掘り起こし、その顛末を描いた論文によって博士号を取得した。また、論文をもとにした「オランダ人捕縛から探る近世史」(山田町教育委員会、電話0193?82?3111)を刊行。専門は日蘭交渉史だが、ノーザン・アイオワ大学では「縄文から昨日まで」(本人談)の日本史を担当している。
「諏訪祭礼図屏風」は2隻16曲、横15メートル縦1.8メートル、「おくんち」を描いた屏風絵で元禄年間に製作。落款はない。諏訪神社に奉納されたが、現在は神社の下にある料亭「富貴楼」蔵で、「おくんち」の間だけ公開される。個人蔵のためか日本の学者の研究対象にはなっていなかった。全図は以下の資料で見られる。(長谷川注)
江戸時代図誌、25:長崎・横浜 筑摩書房1976 図232
「おくんち」は寛永11年(1634年)に始まった諏訪神社の祭礼である。旧暦の9月9日に行われたことから「くんち」と呼ばれた。現在は10月の7日から9日までの3日間行われる。かつてのキリシタンの町を管理、経営するため厳しい禁教策と同時に講じられた民心安定のための幕府の政策の一環である。
屏風絵:
屏風は2隻16曲、右隻には諏訪神社を発した行列(1日目)、左隻には大波止に到着した(3日目)行列が描かれている。右隻(8曲)は右端に諏訪神社の階段下で行われている奉納相撲とそれを見物する桟敷席と祭礼行列、左隻(8曲)には大波止の西町奉行所に続く行列と階段下の広場で行われている遊女の踊り、それを桟敷で見物する人々等が描かれている。
はじめに、この屏風には敢えて描かれていない諏訪神社、大波止の西町奉行所、出島との地理的な関係が他の絵図、屏風絵等との比較によって詳細に説明された。これはこの屏風絵の成立に関する重大な暗示であると博士は推測する。絵師は二つの点から黒田藩のお抱え絵師の狩野昌運と推察される。この絵師の他の絵とくらべて、特に「地下足袋」の描き方が一致する点。当時の長崎湾は黒田藩と鍋島藩によって交互に警備されていたが、絵のさまざまなデティールに博多の影響が顕著に認められる点からの考察による。
博士はここに登場する579人すべてに番号を振って性別、身分(武士、商人、遊女、河原もの等)、服装、家紋、頭髪等について詳細な表を作成された。家紋は実際の絵の中ではわずか一センチほどだが、きわめて精巧に描き込まれている。屏風に描かれた家紋から家紋帳を作成し、これを元に墓地、その他の資料から調査して作中人物の確定を試みた。
音楽関係では踊りの伴奏楽器に三味線、太鼓、横笛が、行列の中には数種類の太鼓の演奏図と、鉦や太鼓、三味線等を運搬している図も見られる。楽師は頭巾をつけた河原ものである、と博士は推測している。
絵に見られるいくつかの特徴:
左隻には大波止の奉行所に続く階段下の広場で演じられている遊女の踊りを桟敷で見物するオランダ人と唐人の間に裃をつけた8人の日本人が描かれている。この日本人は武士とも取れるが、元禄時代にあっては、武士は外国人と同じ平面に描かれるにはあまりに身分が違いすぎる。彼らは裃を付ける権利を10両で手に入れた商人で、この絵の製作に多額の資金を供出した人々であろうと推測される。また、8曲の構成からなる屏風絵というのも元禄時代には非常に珍しい。「8」はこれらの人々を象徴する数字である。
この絵は表面的には「おくんち」、つまり諏訪神社の祭礼を描いているが、最も中心に据えられるべきものは描かれていない。2隻の屏風は右隻は諏訪神社の階段からの場面、左隻が奉行所へ至る階段下の場面、つまり「権力」に囲まれた場を描いているが、実際には神社も奉行所も絵の中には登場しない。また、一人一人の家紋は非常に精密に描かれているのに、諏訪神社や住吉神社の社紋が実際とは微妙に違う。鳥居に町の名前が入っていない、祭りを主催する町の数が合わない等、くんち関係の印はあいまいな描き方がされている。さらには描かれていない重要人物。その人物を乗せてきたと思われる駕籠にも紋がない。また、行列に描かれている数個の傘鉾の短い垂れ幕、祭礼を仕切る奉行の頭巾などからも、博多の祭りの伝統が伺える。
感想:
他の図や史料を用い、かつ実地調査を通じて絵の意味を探っていく過程が実に達者な日本語で話されたが、良質の推理小説をよむような興奮に満ちた時間を体験した。資料を丹念にあさっていく態度とともに、偶然や、博士のユーモアにあふれた人柄によっても調査が助けられていると感じられた。講演後のディスカッションでは諏訪神社に奉納された屏風が個人蔵になった経緯や氏の解釈に対する反論、また、出席した日本音楽史の竹内有一氏からは音楽面のサジェスチョンがあり、活発な論議が展開された。音楽関係の事項は更なる調査が必要と思われる。
博士は服装、頭髪、長崎の遊郭、当時の社会と芸能との関わり等などについて専門家との共同作業を望んでおられる。なお、博士はこの「諏訪祭礼図屏風」から広がったテーマをさらに展開し、長崎の歴史を著す予定と伺った。
(文責:長谷川由美子)
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IAML 1999 ウェリントン会議報告
関根 敏子
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南半球でのIAML国際会議は今回が初めて。個人的にも南半球は初めて。問題があったとすれば、7月のニュージーランドに行くためには、真夏の日本で冬支度をせねばならなかったこと。とりわけ首都ウェリントンは、風が強く雨が多いとか。でも、実際に行ってみると、暖冬でした。
今回の会議では、初めての経験がもうひとつ。それは、本部と各国支部代表によるカウンシル・ミーティングにオヴザーヴァーとして出席したことです。今年は特別で、IAMLの支部長・副支部長・事務局長がどうしても出席できなかったため、代表権を担って藤堂やす子氏(会計担当)が参加、その要請もあって貴重な経験をすることができました。多岐にわたる報告や熱心なディスカッションの中で印象的だったのは、HPやメールでの使用言語、データベース作成のための国際基準、著作権問題などでした。
1週間にわたる会議の各部門については、すでに藤堂氏の詳細な報告が音楽図書館協議会発行の「MLAJ
NewsletterVol.20 no.2」(1990.9.30、痛感97)に掲載されていますので、ここでは、筆者が音楽文献目録委員会(RILM日本国内委員会、委員長:樋口隆一)の代表として出席した「国際音楽文献目録委員会」(以下RILM)について報告したいと思います。
第1回の会合(7月19日)は、藤堂氏が副座長をつとめた「音楽教育機関図書館部会」と同時間帯におこなわれました。まず本部からの報告−−(1)ニューヨーク本部の事務所が移転、7月に本格的な大移動を開始、それに伴って連絡先も変更*。(2)インターネットでの利用者が増大。(3)多言語・多分野時代への対応として事務局スタッフが大幅に交代。(4)各国支部からの文献送付数が年々増加(前年比25%増)。その後、ドイツ、ニュージーランド、ロシアの各国支部から、活動史と現状報告がありました。 ここ数年の新しい企画として、RILM部門では、各国支部の実務スタッフが抱える実務上の問題などについて具体的に話し合う時間をとるようになりました。この機会が年々重要性を増してことは確かで、本部支部の両方から高く評価されています。今年はフランス、ドイツ、ロシアなど、英語が得意でない代表者が多く、筆者も気楽に発言できました。質疑応答の例としては、ウムラウトや音引き(とくに日本語)などの付加記号の送信法(メール)、中国語の表記、とくに人名(中国、台湾など)の発音表記の相違などの処理法、とくにポピュラー音楽、民族音楽学、現代音楽などの分野での文献選択基準、要旨の使用言語など。また本部からの重要な変更事項として、アジアなどの人名を姓・名の順で表記するようになりました。
会期中には、各部門での会合の他に、開催国の文化の紹介、コンサート、コレクションや図書館の見学、水曜午後の遠足など、多数の催しがおこなわれました。そのひとつ、国立図書館訪問では、RILMニューヨーク本部のスタッフ2人とまわったのですが、一番最初のグループだったはずなのに、外に出て見ると一番最後。例年おこなわれるRILMスタッフの交流食事会をしようにも、誰も残っていません。そのおかげで、本部の経費でスタッフ2人と筆者だけで豪華な食事をとるという、思いがけなくも有意義な時間をもつことができました。
IAML国際会議に毎年参加していると、会議だけでなく催しを通じても次第に顔なじみが増えていきます。これも、IAML国際会議への出席が楽しみな理由と言えましょう。
*本部新住所: RILM Abstracts of Music Literature、CUNY Graduate Center,365
Fifth Avenue, New York, NY 10016. phone: (212) 817?1991 fax:(212)817?1569
*この原稿を書いている時に、RILM本部から引越しのため『RILM Abstracts』バックナンバー・セールのお知らせが届きました。今が申し込みのチャンス!だそうです。(在庫分のみ、割引期限は4月15日まで、送料別)。詳細ご希望の方は日本の事務局まで。Vol
1?20 $200 (通常$4,250)各巻$25;Vol 21?25 $300(通常$2000) 各巻.$75;Volumes 26?294冊揃$1000
(通常 $2000). 各巻$250(通常 $500);索引1?3:各$50;索引4:$200;索引5:$250
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IAML国際会議参加補助用基金(改訂版)
2000年3月15日
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昨年11月にお送りした表記のご案内の改訂版を再度お送り致します。すでに本部から今年8月のエディンバラ会議のご案内が届いていると思いますがエディンバラ音楽祭に先立って開催されるIAML年次会議は、音楽祭前であるため、宿泊場所の確保が難しい状況で、例年より申込み期限が1ヶ月以上早くなっています。そこで、基金への応募締め切りを当初の5月末から、4月20日に早めることに致しました。事情をお酌みとり下さり、会員への周知徹底についてご協力下さいますようお願い申し上げます。
音楽図書館や音楽資料を取り巻く環境は、残念ながら昨今、財政的にも地位向上の点でも大変厳しい状況にあります。 そこで働くライブラリアンは、その専門性を問われる時代でもあります。IAMLは本来、専門家集団の活動拠点です。IAML国際会議に参加し、活動する音楽図書館、ドキュメンテーション・セ
ンターそしてアーカイヴの実際を見聞することは、もう一度私たちの立場と方向を確認するためにも、大きな意義があると考えます。 また会議開催地で音楽遺産の一端に出会える機会も見逃せません。IAML日本支部は次の提案を致します。
IAML日本支部支部長(国際音楽資料情報協会日本支部長)金沢正剛
<参考>
年次会議開催地と日程(*は、選挙総会を含む大会、他は年次会議です。本部や開催地のホーム・ページも随時併せてご覧下さるとさらに詳細情報が入手できます)
2000年 エディンバラ(英国) 8月6日〜11日
2001年 ペリグー(フランス) 7月8日〜13日*
2002年 バークレイ(米国) 8月4日〜9日
2003年 タリン(エストニア)
以下日程未定
2004年 オスロ*
2005年 ワルシャワ
2006年 ストックホルム
IAML本部ホームページ・アドレス
www.cilea.it/music/iaml/iamlhome.htm
IAML日本支部ホームページ・アドレス
www.twics.com/~kisimoto/iaml/service.htm
その他お問い合わせ先
応募先にお問い合わせ下さい。
♪♪♪♪♪ ♯♭♯♭♯♭ IAML日本支部は、IAML会議参加費用をサポートします 応募案内 1 サポート対象 2 サポートの内容 3 応募期間 応募者がこの期限までにない場合は、5月末まで再度応募することができますが、会議登録代金が高くなり、宿泊場所を見つけることが難しく なることをご承知下さい。) 4 応募条件 今までIAML国際会議へ参加したことがないこと個人会員歴1年以上 5 選考 6 応募方法 7 応募先 〒106?0041 東京都港区麻布台1?8?14 日本近代音楽館内 (郵送の場合は「会議参加補助申請」と封筒に明記して下さい) |
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♭♯♭♯♭♯ IAML日本支部は、年次会議参加補助基金 募集中 上記の趣旨に沿い、IAML会議参加補助基金を持続的に確保するため、基金を募っています。 御賛同いただける会員のみなさまの寄金を重ねてお願い申し上げます。 1.基金募集対象
団体会員、個人会員 他 2.募集時期
年会費振込時、及び随時 3.金額
不問 例えば、個人会員の年会費(6000円)と合わせて合計1万円をお送りいただければ、25人で1人の参加補助が可
能です。 4.納入方法 郵便振替口座 IAML日本支部 0130−5−75629 (「IAML会議参加補助基金」と明記をお願いします) 銀行 東京三菱銀行六本木支店 IAML日本支部 代表 藤堂雍子 普通 272 1569325 |
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事務局便り
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*会費の本部送金が完了しました。
*会議参加補助基金にご協力下さり感謝します。20名の方が、合計81,000円の基金のプールに寄金をお送りいただいています。なお引き続き主旨にご賛同下さり、寄金を申し出ていただけ る個人・機関がありましたら、下記口座に「会議参加補助基金」と明記し、お振込みいただけると幸です。
郵便振替 00130-5-75629 IAML日本支部
銀行振込 東京三菱銀行六本木支店 普通 1089206 IAML日本支部 藤堂雍子(イアムルニホンシブ
トウドウヤスコ)
*会議参加補助基金の応募期限が早まりました。エディンバラ会議のご案内が本部からお手元に届いていると思います。音楽祭直前の宿泊施設の確保の都合で例年より申込み日程が早まりました。会議参加補助を希望される方は、お急ぎ下さい。応募要項をご確認の上、4月20日必着で事務局長まで郵送あるいはe-mailでお申し出下さい。
〒106?0041 東京都港区麻布台1-8-14日本近代音楽館内
IAML日本支部事務局長 秋岡陽
(封書に「会議参加補助応募」と明記をお願いします)
*Fontes Artis Musicaeの発行が遅れています。3月18日前後にvol. 46/1−2(Jan-Jene 1999) が到着しました。未着の方はお知らせ下さい。(2000年度以降の会員の方はvol.47からのお届けになります。なおしばらくお待ち下さい。)
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会員の異動
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*会員の異動 東京芸術大学図書館、慶応義塾大学三田メディアセンター、 東京文化会館資料室は従来日本支部のご案内が直接届いておりませんでしたが、今後総会、例会、ニューズ・レター等を取扱機関を通じお送りします。積極的なご参加を期待しております。
*新規会員 岩原篤男/中村恭子
*急なご案内にe-mailは有効です。未だお知らせいただいていない方は至急お知らせ下さい。また、会議参加補助基金の応募期限が早まったことのお知らせe-mailが届かずにreturn
mailになったものが何通かありました。このメールを受け取らなかった方は至急その旨をメールでお知らせ下さい。アドレスの訂正を致します。ご協力お願い致します。 連絡先:会計 藤堂雍子
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PUBLICATION RECEIVED
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*日本フルート協会会報 NO.154-157
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事務局だより
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■エディンバラ会議:申し込み開始 2000年のIAML国際会議の要項が本部から発送されました。そろそろお手元にとどいていることと思います。今年は8月6日から11日まで、エディンバラで開催されます。なお、IAMLの国際会議に初めて参加する専門職のかたのための「会議参加補助用基金」があります。詳細は応募案内の記事でご確認ください。
■音楽文献目録委員会に新委員 音楽文献目録委員会の委員が、本年4月から交代します。IAML選出の新委員は、関根和江、竹内道敬、長谷川由美子の3氏。新委員の任期は2002年3月までの2年間です。音楽文献目録委員会は、2年ごとに委員が改選されます。IAML日本支部では、10月20日の役員会のあと候補者の推薦作業をおこない、その後、他団体から選出される委員との調整をおこなった結果、上記の3氏に委員就任をお願いすることになりました。
■事務局への連絡について
IAML日本支部は、日本近代音楽館のご好意により同館に事務局をおいていますが、事務局メンバーは常駐しておりません。郵便物のチェックなど遅れがちになってしまいますので、お急ぎの連絡は事務局長の電子メール・アドレスまで直接お願いいたします。
(以上)