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ニューズレター第13号(July 20, 2000)
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IAML日本支部第26回例会報告
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日時:6月13日(土) 午後1時30分〜3時
場所:国立音楽大学附属図書館 自由閲覧室
講師:井上 義(いのうえ ただし)
題目:文献情報の公開と共有の試み――ホームページ「教会音楽研究」をとおして
雨模様の午後、総会に先立って例会の講演が行われた。今日はホームページの紹介が中心ということで、会場にはパソコンに接続された大きな画面が準備され、全員が楽に画面に書かれた内容を見ることができた。
講師は日本同盟基督教団等々力教会牧師の井上義師で、教会音楽に関する充実したホームページの開設者でもある。この日はそのホームページの紹介を通して、こういった形での情報の蓄積と公開に関しての問題点や抱負が語られた。
井上師のホームページの構成は次の通りである。講演は日本語版に基づいて行われた。
教会音楽研究のホームベージ
日本語版 (http://member.nifty.ne.mp/kikaios/index.html)
英語版 (http://www.lowdown.com/~dikaios/English/index.html)
INDEX
新刊案内
新刊書評/新着フラッシュ/新着雑誌・論文集目次
研究文献情報
欧米語文献編/日本語文献編/専門文献編
米国音楽留学ガイド 一般音楽編/教会音楽編
讃美歌ガイド
賛美歌入門/英語讃美歌購入法/英訳日本語讃美歌/クリスマス・キャロル
リンク集
音楽学関係/合唱/聖歌隊/賛美歌/チャント/オルガン/楽器/礼拝音楽/式文/ML/Forum/出版社/販売店/その他の音楽/学術全般/神学
エッセイ・研究論文
教会音楽四方山話
書き込みボード
質問ボード
情報掲示板・新刊案内/What's New/教会音楽史の窓/研究会・読書会等のご案内/Profile
このホームページの核になったものは「欧米語文献情報」であり、それはもともと米国留学中に、帰国を控えた留学生仲間に「帰国に際して購入する価値のある教会音楽関係の文献リストの作成を依頼され」たことで作成されたものだという(その後神学校の教授からも同様のリストを依頼されてアップデートする)。在米中の1996年10月にはそれに「新刊書評」と「リンク集」を加えてホームページとし、まもなく「米国音楽留学ガイド」と「賛美歌ガイド」が加えられた。その後、英語版も作られたが、それは「『リンク集』以外の教会音楽研究案内サイトは、当時、英語圏でも皆無に等しかった」からであった。
そもそも井上師が文献情報に関心を抱くきっかけになったのは、広島大学の卒業論文で「ルターの音楽思想」を取り上げたことに始まる。そのいきさつはホームページ内の
Profile の部分にも、詳しくそしてユーモラスに語られている。その後、東京基督神学校において教会音楽をさらに学ぶことになるが、神学校が当初国立市内にあったことから、国立音楽大学図書館を頻繁に利用することになった。
1991年から米国の Westminster Choir College の大学院に留学し、その必修コースである"Introduction
to Musicology" 等のために、膨大な文献に接すること
になり(上記クラスでは1学期間に200冊以上の「書評要約」が要求される)、またそれらをレポートに引用・借用する際に守るべき厳格なフォーマットを身につけることによって、書誌学への興味をさらにつのらせることになった。ただ、そういった膨
大な資料も、米国では大学の図書館へ行けばたいていは備えられており、手に取って見ることができた。ひるがえって今日本では、文献を網羅した図書館はなく、また注文も中身を知らずにするしかないという状況下にあるのが大違いだ。
さて、ホームページのコンセプトだが、もちろんインターネットの特性である速報性を生かし、またことに日本で非常に特殊な領域であるこの分野で、情報を集中して提供するということがまず挙げられる。また、井上師自身がかつて欲し、また自ら見いだしていくしかなかった教会音楽学習のノウハウを、初学者に提示するというのも、大きな使命である。
問題は、情報の収集・構築に多大の労力と時間を要することで、将来的には「協力者ないしは同じような志を持つ人で」情報を共有して、研究グループあるいは学会的な集団の形にしていきたいと考えておられる。ちょうど富田庸氏がご自分のバッハのサイトで、出版ではなくホームページの形で情報を提供する理由としてその速報性と利便性をあげ、そのための協力者を募っているように。
ということで参加者一同情報量に圧倒されるうちに講演は終了したが、時間に少し余裕があったので「書き込みボード」からの楽しいやりとりがいくつか紹介された。井上師はdikaiosなるハンドルを使っておられるが、これはお名前に由来するものであろうか。
個人的にはまったく不案内な領域がテーマの講演であり、賛美歌学なる分野があることを初めて知るといった始末ではあったが、本題以外にも得るところは大きかった。
(文責 佐藤 みどり)
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アメリカのオーケストラ・ライブラリアン
関西フィルハーモニー管弦楽団 佐古純子
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1998年の秋のシーズンから約1年間、文化庁在外派遣員としてニューヨーク・フィルハーモニックとメトロポリタン・オペラにて研修することになった。渡米するのは9月5日。しかし飛行機会社がストライキをおこし、急に飛行機会社の変更となりあわただしい出発となった。
ニューヨークに到着して9日後にこのシーズンの注目の演奏会である常任指揮者クルト・マズア氏によるべ−トーベン・チクルスのリハーサルが始まった。ライブラリアンは私を含め4人。生活のリズムをつくり、9時からの仕事を開始。ニューヨーク・フィルでのライブラリアンの仕事内容は首席ライブラリアンの議長による会議からはじまる。コン
サート・マスターの確認、そして新しい楽譜の説明、ボウイングの作業ができるよう、他パートの首席の確認である。もちろんエディションの確認もある。首席ライブラリアンは管楽器を担当している。他のライブラリアンは弦楽器を担当する。弦楽器を担当する者は二週間単位でファースト・ヴァイオリン、セカンド・ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスにわかれて作業をする。私の属するライブラリアンのチームの作業は後述する内容である。各弦楽器の首席がリハーサルの休憩に集まり、ボウイングの相談をし変更をする。印がつけられたものをライブラリアンがすべて書き変える。この仕事でよくわかったことはまずどのようにボウイングがつけられているかである。いつもスコアをデスクに置き、ボウイングを書く。これがライブラリアンの仕事の半分を占めるのである。この作業の最中に楽譜に間違いがあったりすると容易に探し出せる。またレンタル譜は演奏会のたびに楽譜を作製することが多い。これは少し見にくい所を修正した後に新しいボウイングをつけてもらうらうためのものである。また平均年令が高いため、楽譜を見やすくするように拡大したりという細かい心使いまでする。ボウイングに関しては時にはファースト・ヴァイオリンのボウイングからセカンド・ヴァイオリンに写したりもする。このような作業をして楽員の手に渡るのはリハーサル4、5日前。またニューヨーク・フィルでは世界初演の作品が多く、楽員から「どのような楽器なのか」と質問がきたりする。そのたびライブラリアンがインターネットを使い音のチェックをしたり、資料集めをする。演奏会が成功した時、ニューヨーク・タイムスがライブラリアンに対し「すばらしい対応」と批評が出たこともあった。
私がいたシーズンにはコピストと仕事をする週があり、4人程度のコピストが集まった。アレンジものの楽譜のチェックである。このコピストとはまだ日本では馴染みのない職種であり、ライブラリアンとはまったく違った仕事をする人達で、楽譜のすみずみまで写譜ミスがないかどうかを探す仕事をしてくれる。また組合に所属するために、コピストもし
くはライブラリアンかをはっきりと区別しなければならない。
研修中ニューヨーク・フィルが演奏旅行に出た時にはメトロポリタン・オペラで研修をするチャンスを得た。ボウイングを書いたりするのは同じであるが、メトロポリタン・オペラでの大きな違いとは修復作業の多いこと。新しい楽譜、古い楽譜、スコアの修復を教えてもらい大変勉強になった。まずシーズンに使う新しい楽譜はそのまま出さない。てっきり私はそのまま出すのかと思っていたらソーイングという作業が待っていた。これは買った新品の楽譜を長持ちさせるための仕事である。作業内容は、ホッチキスをはずす、その後アイスピックで5個の穴をあけ、そこから特製の糸で縫う、表紙もつけるのである。この作業をすべておこなっているのでいたみも少ない。またはじめてオペラ・スコアの修
復も行なった。ばらばらのスコアを立派なスコアへと変身させることはとても楽しいものであった。もちろんソーイングの技術を取り入れてする作業は大変時間と忍耐がかかるものであったが、できた時の感激は忘れられない。指揮者が「これで2度目なんだよ」と言っていたが、前にした人はなんと奥様。こちらも「負けてはいかぬ」と作業をしたがこの
製本作業にはライブラリーにはないものを使う。たとえば布、背にはる布、などである。しかしここはライブラリーといっても劇場。すぐに衣装さんのところへ行き、あまり布をもらい作業を開始。糊がなかなか乾かず約1週間かかってやっと完成。メトロポリタン・オペラでも初めての作業らしく、いろいろと本を見て研究。その中には日本の製本技術が紹介されており、昔の日本の本のコーナーがあった。日本ではこの製本のしかたに馴染んでいるが、外国の本で紹介されるとは日本の製本技術も捨てたものではないのだ、と感心したしだいである。
アメリカはコンピュータ社会である。アメリカというとてつもなく大きな国にはオーケストラも多く、メジャー・オーケストラは50団体を超える。それぞれのライブラリーは「opas」というデータベースを使い,各ライブラリーの管理をしている。編成からすべて
のスケジュールの管理までを行う。しかしニューヨーク・フィルではコンピュータの管理も大切であるが、アナログ的なカード式の管理も大切にしていた。また一年に一度は全土のメジャー・オーケストラの首席ライブラリアンが集まり、会議をしてライブラリーの運営のしかたを話しあう。メジャー・オーケストラのライブラリーは事務局から独立しており、首席ライブラリアンが一年間の経費、もちろん部下の管理もしなければならない。そのため、日本では考えられない採用のしかたをする。ニューヨーク・フィルでは音楽家としての採用で空席があれば、オーディションをしてライブラリアンを決める。日本は現在、事務局の一部として動いているライブラリーであるが、全くちがったのであった。
一年間のインターンの生活はとまどいの毎日であったが、帰る時にはなんて早かったのだろうと思い、合理的なアメリカ人の考え方、そして仕事のしかたを日本に持って帰り、大きな土産として現在仕事に向かっている毎日である。
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事務局便り
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会議参加基金は6月28日現在20万円に達しました。
残念なことに、この基金を活用したいというお申し出はなかったので、来年以降の分としてプール致します。
「IAMLに入会して、IAML年次会議に行こう」キャンペーンは引き続いて行っています。
IAMLに関心をもち、音楽資料を扱っているライブラリアンの皆さまの積極的なアプローチを期待しています。詳しくは支部ホームページをご覧下さるか、事務局までお尋ね下さい。
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会員異動
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*会員の異動
♯新会員 浅井佑/刈屋公延/高橋美都
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Publications Received
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*Publication Received
日本フルート協会会報 No.158-159
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その他
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☆催し物案内
日本オーケストラ連盟の主催で帰国報告会を行うはこびとなりました。
御興味のある方はおいでくださいますよう御報告いたします。
日時: 7月31日 13時より約1時間程度
場所: 大阪センチュリー交響楽団 佐古 純子
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■IAML国際会議参加補助用基金
IAML日本支部では、IAMLの国際会議に「初めて」参加する「専門職」のかたのために、会議参加補助金制度(1人10万円、返済不要)を設けています。2000年のエディンバラ会議に出席する方のための補助金申請は、5月末日をもって締め切りましたが、残念ながら応募者がありませんでした。次回2001年のペリグー(フランス)会議の参加者への補助金は、同会議の案内書が送られて来た時点から募集を開始いたします。
■次回役員会
日本支部の第3回役員会が9月20日に行なわれます。協議・検討を希望する案件をおもちのかたがいらっしゃいましたら、お近くの役員に直接ご相談いただくか、あるいは事務局長あてご連絡ください。
■事務局への連絡について
IAML日本支部では、日本近代音楽館のご好意により同館に事務局住所をおかせていただいておりますが、同館には事務局メンバーが常駐していません。郵便物のチェックなどは遅れがちになってしまいますので、お急ぎの連絡には上記の事務局長の電子メール・アドレスまで直接お願いいたします。