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ニューズレター第17号(Nov.18,2001)

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第29回国際音楽評議会(IMC)

The 29th general assembly and international symposium
of the International Music Council
総会・国際会議

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シンポジウム報告

 去る9月30日と10月1日、標記に関連したシンポジウムと演奏会が東京芸術劇場を会場として行われた。
演奏会は2夜にわたり、9月30日は「オーケストラによる日本の響き」と題して、宮城道雄、廣瀬量平、三善晃、武満徹、外山雄三の作品が、東京都交響楽団、小泉和裕の指揮で演奏された。大ホールの会場はほぼ満員の盛況であったと聞く。翌10月1日は中ホールに場所を移し、国際音楽の日記念演奏会──ハイテク楽器のライブ演奏による新しい響き」として、サイバーキーボードというハイテク楽器を用いた音楽会が催された。
シンポジウムは《21世紀の音楽文化は──地球化と地域的アイデンティティ》と題して、30日午後、中ホールで行われ、地球化がテーマということで、世界各国から4名のパネリストを迎えて真剣な議論が交わされた。以下にその概略を報告する。
この20年ほどの間に、地球化がめざましく進む中で、世界各地の音楽文化はそれぞれの特徴をどのように守っていくべきか、地球化と地域的アイデンティティの共存は可能であろうか。
 まず、イギリスのギルドフォード音楽院で若者の指導をしてきた音楽教育者ピーター・レンショウ Peter Renshaw 氏は、音楽院が地元のコミュニティーとの交流を深める目的で取り組んでいる活動を紹介しながら論ずる。地球化により事物の境界線が不明瞭になり視界が拡大すると、文化的風景が変化する。地球化による情報過多の中で、個人主義が強まり、社会的つながりは希薄、脆弱になっていく。それを活性化させるために芸術の果たす役割は大きい。疑問、好奇心を持たない傾向にある若者が増えている現在、教育機関による明確なビジョンを持ったアプローチと、強いリーダーシップが求められる。回避できない地球化の流れにおいて、文化的多様性を保ちながらの地域的アイデンティティを積極的に考えるべきである。未来を見据えて、現在音楽家には自己の位置づけが求められている。地球全体を視野に入れて外に向かう感性を磨くか、自己中心的世界に閉じこもるのか自己定義し直す必要がある。
 次に、スウェーデンの音楽学教授でヨーロッパの伝統楽器や民族音楽に造詣の深いヤン・リング Jan Ling 氏は、社会の変化に連動して起こっている音楽の変化を、ヨハン・ヘディンの活動を通して説明する。かつては地域的だった彼の活動が、レコード産業というメディアによって地球化に移行し、さらにはインターネットにより作品が配信される日も近い。一方で地球化によって新しいナショナリズムが生まれており、現在はスリリングな状況にある。このような現在こそ、世界的規模での若い音楽家の交流が必要であろう。
 また、韓国の伝統音楽の先駆的作曲家、演奏家であり、同時に古典に新たな解釈を導入し前衛的な作品を作曲しているホワン・ビュンギ Hwang Byung-ki 氏は、3つの事例をあげて、交通、通信の進歩により地球全体がグローバル・ヴィレッジ化しつつある中で韓国的とは何かを問う。韓国の楽器は使用しなかったが、韓国的なものと国際的なものを同時に求め韓国の雅楽の特徴が息づく作品を作曲したイサン・ユン、韓国の楽器を使用してアイデンティティを探るポピュラーグループ、韓国の楽器は使うが前衛的な作曲を追求する自分自身。地球化は事実として存在し否定できない。また他分野との共同を可能にする。メディアの交流は、力の強い者(西洋音楽)が全てを支配する危険をはらみ、力のない者にとって脅威となることを忘れてはならない。21世紀は一つの文化ではなく様々な文化が同時に栄える時代になるであろう。
 最後に日本からは、独自の視点で文化史にメスを入れる渡辺裕氏が「アイデンティティの形成と変容」と題して、自明のこととされがちな日本音楽あるいは日本文化のアイデンティティを問題にする。西洋の影響を排除したところに「本来の日本文化」が存在するという前提から出発してものを考えようとする文化本質主義的な姿勢こそが問題であり、文化形成、変容のプロセスを示し、作用した要因を明示することが重要なのである。1920〜30年代の日本は、新しいものを取り込む進化する文化をはぐくんでいた。異文化の影響を排除したところに現れてくる日本固有の「純粋」な文化として表象されていたのではなく、様々な異文化の良いところを積極的に吸収し、ますます優れたものに生成発展するものとしてイメージされていた。摂取し豊かにするものとしての日本文化という表象が失われ、保存すべき伝統としての日本文化という表象に取って変わられるには、政治的・経済的な力関係を含む様々な要因が働いている。西洋の目を意識した活動を重ねているうちに、西洋の目で自文化を見るようになったのである。西洋寄りのスタンスを前面に出し、西洋の視点に立つことが、邦楽改良運動を衰退させる一つの大きな要因となった。西洋社会とアジア社会のはざまで微妙な位置を占める国日本が、文化的力関係の中でどういうポジションを取るべきか。これは文化のあり方を左右するほどの大きな意味を持つ。
 今回のシンポジウムをコーディネートした徳丸吉彦氏は提言する。地球化の進む中で地域的アイデンティティを共存させるために、我々音楽文化を担う者は、現在自分自身を定義し直す必要があるのではないか。地域的アイデンティティを尊重しながら、地球化の中でそれらを孤立させることなく連結することが、21世紀の音楽文化を豊かなものに導く指標となろう。
 文化庁と第29回IMC総会組織委員会(IMC日本国内委員会/東京都教育委員会/(財)音楽文化創造)主催の公的な催事であり、各方面からの助成と協力を得た事業であったにもかかわらず、シンポジウムの宣伝が十分であったのか疑念を抱くほどに、参加者は寡少であった。世界各地から熱心な聴衆が参集し、会場からの討議への参加も積極的で、内容の濃いシンポジウムであっただけに、閑散とした会場風景には残念かつ寂寥たる印象を禁じ得なかった。
 シンポジウムに先立ち、フランス・デ・ルイテルIMC会長よりアメリカでの同時多発テロ事件の犠牲者に対し哀悼の辞が述べられ、参加者全員による長い黙祷が捧げられたことを付記しておく。なおシンポジウムの様子は、多少の編集を施されたうえで、NHKBS7から10月27日に放送された。後日、渡辺裕氏のご厚意により発表のペーパーを頂戴することができた。ここに謝意を表します。

(文責:関根和江)

 

 

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「国立音楽大学附属図書館所蔵 ベートーヴェン初期印刷楽譜のウェブ公開について

国立音楽大学図書館・音楽研究所
ベートーヴェン部門 長谷川由美子

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  国立音楽大学が所蔵する1300点あまりの「ベートーヴェン初期印刷楽譜」所蔵目録の公開がウェブ上で始まっている(アドレス:http://www.kunitachi.ac.jp/lvb)。現時点では部分的な公開であるが、12月に参考資料、年代、版と書誌的来歴を加えたすべてが全公開される。コレクションの特徴や具体的な記述内容は既に公開されている目録の凡例をお読みいただきたい。この文章では凡例に記していない編集方針についてより詳しく述べてみたい。なお、一部、凡例と重なる部分があることをあらかじめお断りしておく。
 コレクションは明確な方針のもとに集められたものではない。したがって一見重複も多々あるが、細かく検証すると記入や状態が異なっていることが多い。この違いはタイトルページ、楽譜第一ページの記述、テキスト本体、さらに紙の質や透かしにまで及んでいる。具体的な例を見ていただきたい。

タイトルページ:改題版のほかに、出版社の住所の変遷、出版社番号の追加、価格の変化など。特に価格はナポレオン戦争の影響下にあった19世紀初頭のウィーンの出版物では著しく変化し、価格がプレート面、あるいは印刷面から削り取られていたり、新価格が鉛筆やインクで記されたり、新価格がプレートに刻印されたりしている。

楽譜第一ページの記述:ヘッドタイトルに新しい語句が加わる、楽譜の第一行目に先立つ部分にある記述が変わる、ページ左下に折丁番号(signature)が加わる等の変化が見られる。

楽譜本体の変化:プレート番号が加わる、プレート番号の欠けていたプレートに新たに番号が補充される、メトロノーム記号が加わる等の変化に加え、プレートの混在がかなり頻繁に行われていたと思われる。プレートが一枚だけ新しくなったものから、ほとんどの部分が新しく刻印されたケース、あるいは刻印された時期が異なったために多種類のプレートが混在したケースまでがあった。また、タイトルページのデザインやプレート番号はまったく同じにもかかわらず、楽譜部分はすべて新しいプレート、つまり新版だった楽譜もある。数は少ないがテキストの変更や追加、改訂もみられた。編集者はこれらの違いを明らかにすることが、19世紀の楽譜出版を考えるうえで重要だと判断した。したがって一点一点の詳細な記述とともに、可能な限り既存の書誌、あるいは重複して持っている別の資料との比較をおこなった。

 現時点ではベートーヴェンの主題目録であるキンスキー=ハルム目録の新版(予定では今年中)は出版されていないが、出版された時点で、当目録に記されたキンスキー=ハルム目録への参照ページの訂正、及び若干の記述が変更になることを付け加えておく。

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事務局便り

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 *会計報告 

2002年度会費請求をお送りしました。

次年度会費請求をお送りしました。年内送金にご協力くださいますよう。送金の際、住所、電話、ファックス、メール・アドレス所属先などの変更をお伺いしています。この1年、まだお知らせいただいていない方は併せてお知らせ下さいますよう。Fontesの発送、支部のご案内などに支障なきよう、ご協力下さい。

 

なお、今年始めて2人派遣した会議参加基金の募集も同封いたします。

来年のカリフォルニア大学バークレイ校でのIAML会議に向けて、次年度も基金募集を致します。

支部の未来を拓くために、どうかご協力お願い致します。

 

 

♪♪会員異動 

♪住所など変更

住川 鞆子

 

 

 *事務局だより

■2002年IAML国際会議

2002年のIAML国際会議は、8月4−9日に、カリフォルニア州バークレーで開催予

定。同会議に関するウェブサイトも公開中。

http://www.staff.uiuc.edu/~troutman/berkeley.html


■Publication Received

音楽文献目録 29 /音楽文献目録委員会

IMI News / Israel Music Information Center ; Israel MusicInstitute 2001/1

 

■IAML新役員メンバー

7月大会で選挙投票開票の結果、会長J. Roberts (USA)を始め、以下の会長補佐が決まりました。

Dominique Hausfater (France) Federica Riva (Italy) Ruth Hellen (UK) Kristen Voss-Eliasson
(Denmark)

 

■IAML John Roberts来日


7月大会で新会長に就任したJohn RobertsがIMC国際会議総会に出席するため、9月末から10月3日まで来日されました。都内在住でメールで緊急連絡できる方には夕食会のご案内をしましたが、結局5名の支部会員が集まり、歓談の時を過ごしました。その折、来年は、彼の属するカリフォルニア大学バークレイ校音楽図書館での大会が予定されています。アジアのライブラリアンを招くことも考慮対象となっているので、相応しい情報があれば知りたいとのこと。

初参加で補助を必要としているアジア地域(日本を除く)のミュージック・ライブラリアンを紹介できる方は、藤堂宛ご相談下さい。

■事務局への連絡

IAML日本支部では、日本近代音楽館のご好意により、同館に事務局住所をおかせていただいていますが、同館には事務局スタッフは常駐しておりません。郵便物などのチェックは遅れがちになってしまいますので、お急ぎの連絡は事務局長の電子メール・アドレスまで直接お願いします。

(以上)

 

 

 

IAML日本支部ニューズレター 第17号

 

2001年11月18日 発行

発行 国際音楽資料情報協会(IAML)日本支部

〒106-0041 東京都港区麻布台1-8-14

日本近代音楽館気付